空港のロビーには帰郷の米兵たちと彼らを迎える家族と、
「Have a nice holiday,and merry christmas!」そんな言葉で、立ち話を締めくくる人々。
スーパーに入るとまず目に入る赤と緑。
すでに本格的に寒くなった南部のジョージア州も、年末の休暇やクリスマス、新年を前にして、
さすらいのものには少し羨ましくなる、お祭りの熱を帯びてきていた。
僕たち3人がアメリカに集合したのはそんな寒い12月の末だった。
男ばかり、車で数千キロの道のりを交代で西海岸まで横断する。
普通、アメリカの旅行ってのは、少しぐらいゆったりと出費しながら行うものだ。
けれどどうしても、お金を節約したい僕の金銭感覚に、ある程度2人に合わせてもらうことになってしまうw
その結果、僕たち3人は執拗なサンドイッチ生活を強いられた。
そして彼らは、年始早々に実習が始まるなかなかタイトな日程なので、金のない僕から時間も制限をつけていじめてくる。
時間もなければ金もない。
そんな旅が大学生のキャピキャピした旅になるはずはなかった。
でも、ひとつひとつ乗り越えながら自分たちで走るのが楽しみでしょうがなかった。
自分たちで慣れない運転をすれば危険は伴うし、もしかしたら事故ってややこしいことになるかもしれない。
でもここには冒険があって、全部、経験になるのがいい。
とにかく、総走行距離6300kmの長ーい茶番が始まる朝がやってきた。
アトランタの公道に繰り出す前にここで、お礼を書かねばならない。
それは恩賀とヤマシタ経由で届いた僕にたいする救援物資についてである。
本計20冊、ポン酢、日本が誇るインスタント食品、ふじっこに正月用の黒豆や鏡餅まである。
家族からの手紙も嬉しい限りだ。
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夢のようだ!!! |
このブログは自分のための記録と、半分は自分を気にしてくれている家族や友達のためにつけているようなもので、特に家族は楽しみにしてくれているみたいだ。
そうでなければ、こんな意味もないブログをつけるために
WiFiがないのにあると騙してきた宿の客引きに、怒鳴ったりはしないのだ。
ああ、それにしてもこの輝く日本の食品はどうだろう。
ローカルフードでもちろん日々満足してはいるのだが、心のどこかではメードインjapanを求めている。
そして僕の活字の飢えを解消してくれる文庫本たちよ。
本当にありがとうございました。
わが一家からもらった支援はそれだけでない。
余っているのに、必要ない靴下が山ほど入っていた。
もう足は臭くないぞ。
日本の自宅では姉のものを盗用すると、ぶちぎれられたR'OCCITANEのアメニティ。
汚い旅人にロクシタンは、猫に小判以上だろう。
本当にありがとうございました。
おかげで僕の荷物はこんなになりました。
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無計画に所持品を増やす
バックバカーの末路。 |
文庫本や食料を手に抱えて、ギターを背負っているバックパッカーを未だかつて私は見たことがない。
なんとかトランクにぶちこんで、出発。
時差ボケあるだろうにも関わらず、二人の目覚めは上々だった。
ドライバーはヤマシタ。
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真剣。 |
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アメリカ的朝食。 |
アトランタ発祥だという、waffle houseでおいしいワッフルを食べて、
恩賀のお姉ちゃんと、その友達のかっこええ外人が待つアトランタのワールドオブコカコーラミュージアムへ。
道を間違えまくり、10回ほどUターンを繰り返し、お姉ちゃんに電話した結果、たどりついた。
僕は4年前に一度来たことがあるのだが、場所のイメージが当時と全く違う気がした。
どうやら近頃リニューアルしたみたいだった。
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アトランタの都会とミュージアム。 |
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こっちで合ってるん?
わからーん。 |
15ドルくらいのチケットを買って入った。
僕にとっては少し高いので、外で待ってようかなという、ノリの悪い発想が頭をよぎり、
喉元まで出かかったのは内緒だ。
アメリカにいる間、自分たちの車で移動。
夜は無制限の熱いシャワーやバスタブのある、
モーテルという名の5ツ星ホテルに泊まれる贅沢三昧。
なもんで少し勘違いして、バックパッカー気分ではなくなってきたのだ。
ミュージアムだが、中のアトラクションは4年前よりもクオリテイが上がっていた気がする。
世界中で、たくさん変なジュースを飲んだが、結局変に冒険するのにも飽きて、どこ行ってもコーラを飲んだ。
コカコーラはどこでも同じ味を提供してくれて、かなり助けられたな。
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ワールドオブコーク。 |
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これがやらせかどうかは知らないが、
かなりの僻地でもでもなぜかコーラは流通してる。 |
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ききコーラをする山下と
なぜか温かい表情で見守る皆。 |
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インカコーラ。黄色いやつ。 |
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コーラいぱーい。 |
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姉弟。 |
元を取ろうと、英語の展示にかじりついているうちに12時を回ったので、
おんがのお姉ちゃんとイケメン(名前タカやったかな)とは別れをつげた。
今日の僕らのメーンイベントは他にあった。
ここから北東に3時間移動したアラバア州ハンツビルという街に行かなければならないのだ。
ハンツビルは、恩賀がお父さんの転勤で8歳のときから2年間住んだらしい。
その当時の家や、彼が通っていた学校を訪れたいというのが、
彼自身のアメリカにきた一番大きい理由だったのだ。
だからこのミッションが成功するかどうかで、今後の旅のテンションに影響してくるはずだ。
頼りはオンボロ地図アトラスと恩賀の記憶。
アトランタの中心を北に出て行くとき、一旦道を間違えながらも、その後リカバリーした。
まずは、道路沿いで見つけたバーガーキングで腹ごしらえ。
Double Wooperめっちゃおいしかったらしい。
貧乏性の誰かさんはバーガーキングの横に見つけた大型スーパーTargetに走り、2ドルのビスケットを注文。
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おいしそうやったー。 |
さて、ビスケットキングで腹ごしらえした僕はヤマシタと運転を交代した。
もちろんナビ役は恩賀。
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かっこつけてみた。 |
アメリカの道路はちゃんと落ち着いて見れば、
なるほど車社会だけあって、道路のゆれも少ないし、
日本に比べてカーブも少なく発達しているし、合理的にできている。
ただ、大都市周辺は出口の看板が出てから、出口までの距離が十分じゃないので焦る。
間違って降りてしまったり、降りそびれたりを繰り返してしまう。
でも天気がいいのでドライブは最高に楽しい。
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きれー。 |
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事故りませんようにー。 |
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初めての給油も、勉強のうち。 |
途中の苦労はいくら書いても足りないくらいなのだが、
3時間走り、どうにか僕たちはハンツビル周辺までたどり着いた。
気温は上げる強さはないながら一日照っていた日も、
既に傾いていたので、少し焦った。
暗くなったら探すのは難しくなるからだ。
そしてこの辺かなあの辺かなーと車を走らせていると、
ある交差点を見つけたとき徐々に助手席の恩賀のテンションが高まるのがわかった。
「ここのスーパーによく買い物に来てた・・・!」とか「この先に牧場みたいなんがあって・・・」
別に聞いてもいないのに、そう言わずにはいられないみたいだった。
昔住んだ場所を15年ぶりに訪れて、嬉しがらないやつはいないだろうが、
普段から冷静で、遊園地に行ってもあまりはしゃがない恩賀がこうなので、
ヤマシタも僕と同じく「知らんやん」と言いたげだったけど、悪い気はしない。
目新しい地をめざす旅も冒険だが、
こういう自分の昔の足跡を辿るのもまたしかり。精神的な意味において冒険だ。
15年前の記憶の中を旅するのはどんな気分だろうか。
僕はずっと同じ場所に住んでいるのでわからないが、きっと特別な気分に違いない。
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おんがの故郷だぜー。 |
交差点を左折したあと、
恩賀は道を完全に思い出したみたいで、簡単に家にたどりついた。
ストリートの両サイドに家が立ち並ぶ典型的なアメリカの住宅街のブロックの端に、
大きな樹のたったレンガ造りのかわいい家があった。
恩賀は見える全てを懐かしがって、家に帰って家族に見せるために、
今では赤の他人のものであるその住居の写真をとりまくっていた。
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敷地が広いのってええなー。 |
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我らが愛車と恩賀そして家。 |
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この通りを在りし日の恩賀少年は駆けていたのだろうか。 |
僕はこのミッションが成功したことに満足しながら、それを眺めていた。
すると家の前に車がもう一台とまり、男の人がなんら珍しくない外見の家の
写真をとっている三人を横目に見ながらその家に入っていった。
これはいいチャンスなので、ピンポン押して中に入れてもらおうと
あつかましいことを言っているうちに、その人が出てきくれて、
「昔この家に住んでたのかい?」
と聞いてくれた。
そうですと答えると、なんと家の中に招いてくれた。
アメリカ人のこういう優しさや他人との壁を作らないところは素晴らしいと言わざるを得ない。
人の家の写真をとりまくってたら日本だったら通報されるんじゃないか?
と、ヤマシタと感動していた。
家の中に入ると、恩賀はリビングや自分が昔寝ていた部屋、キッチン、
そしてトイレまで見せてもらい、ただただ驚嘆していた。
「こんなに小さかったっけ!?」と今では180cm近い彼はひたすら繰り返していた。
まあ、そうだろう。
クリスマスのクッキーをもらって、皆で写真撮影をしてその家を出た。
とっても優しい人たちだったので、出会えただけでもいい経験だった。
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僕らには一切何でもないリビングも
住んでた人には特別だ。
すっかりクリスマス仕様だ。 |
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住んでたぼーや。 |
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この壁に向かってよくボールを蹴ったらしい。 |
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集合写真。
ヤマシタ関係ないなw |
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自分の部屋を見て感動している図。 |
その後近所にある、当時の友だちの家を訪ねるも、今はもう違う人が住んでいた。
恩賀の思い出ツアーの最後を飾ったのは15年前に通った学校だ。
ここでも彼はグラウンドに校舎に写真を撮って満喫していた。
僕とヤマシタは暇なのでブランコで遊んでいた。
はしゃいでいる恩賀は、まだ一日しか経っていないのに
「来てよかった」と言った。
僕は欧米人みたいに、楽しんでる?とかいちいち聞くのはナンセンスだと思っている。
特に男同士とのノリがそんなだと、なんか気持ち悪い。
けれど、現地で出あった旅人のことならいざ知らず、
日本からわざわざ日程を合わせくれて、旅路を共にしている親友が
楽しんでいるかどうかは、多少気になるものだ。
そしてなんか少し肩の荷が降りたように、ほっとする。
ハンツビルの広い空が、見る間に濃いオレンジに染まっていく。
あの家族に出会えたことも、この夕焼けも15年ぶりに訪れたかつての少年を
祝福しているみたいに見えた。
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ブランコヤマシタ。 |
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これが学校。
しゃれてるなー。
でも今改めて見れば他人にとってはどうでもいい写真だw |
暗くなってきたし、先の日程もあるので名残惜しいながらも、長居はできない。
車が停めてある駐車場に向かった。
なんだか楽しくなっていたからなのか、気温が低いからなのか、
3人とも童心に帰って、駆け足だ。
このまま西海岸まで走れるような気さえした。
こいつらとならアメリカを楽しく旅行できるに違いない。
きっとトラブルはたくさんあるだろうが、そんなもん、余裕で乗り越えてやるぜ!
そんな風に久しぶりに誰かと共有した充実感に浸っていた。
まるで青春。
この旅最悪のトラブルが進行中だとも知らずに。
車の前に戻り、僕は自分のポケットをまさぐった。
僕「あれ・・・ない!」
二人「何が??」
僕「車のキー。」
二人「はぁ?」
怒りと失望が混ざった二人の声が胸に刺さる。
さっきまとまったばかりの三人のチームワークに、すぐさま亀裂を食らわす。
そんなミスを僕は犯したのだ。
ボリビアで買ったズボンのポッケが破れていた。
三人は瞬時に事の重大さを理解した。
もう、5m先の人の表情がわからないくらいの暗さだった。
灯もほとんどない。
不幸にも僕は校舎の敷地をかなり歩いたので、調べる場所は広範囲にわたる。
おまけに芝生が生い茂っているときた。
どんどん闇に変わる夕焼けのオレンジが、警告の赤に見えて目がチカチカした。
終わった。
このときの絶望感はなんとも言い表せない。
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これはおんがが走る背中を撮った写真だ。
暗すぎるw |
外で朝は待つのは不可能だ。
ここも夜は氷点下になると聞いていた。
薄着の僕らは脅しではなく、凍えてしまう。
朝まで待ったとして、見つからなければ、アトランタに自力で帰り、鍵をもらうことになる。
あの管理の適当さだから、すぐ鍵をもらえるかどうかもわからない。
その時間のロスは、夢がはかなく散ることを意味する。
まだ横断どころか、スタートから3時間の距離だぞ!!!w
地面に這い蹲るようにしてダメもとで探すが、見つからない。
いや暗すぎて見つかる気配すら見つからない。
外は真っ暗、頭は真っ白だった。どれだけ探しただろうか?
あきらめる選択肢が濃厚になってきた。
あの家に泊めてもらうしかないなーと思っていると、
「あった!」と恩賀の声がした。
神様・・・!。
たまたま歩いていた足にコツンと鍵が当たったらしい。
そんなことってあるだろうか。
もう奇跡だ。
書いていても、なかなか伝わらないだろうが、
何もなかったように僕たちは次の街に向かえることになった。
想像しないようなことが起こるのが旅だ。
いい意味でも悪い意味でもね。
と自分の不覚に理由をつけた。
あーよかった。
自分のせいで台無しになるとこだった笑
スーパーに寄って食べ物を買った。
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アメリカンな買い物。 |
次の街テネシー州メンフィスまで、約7時間走らせた。
着いたらもう深夜だった。
今写真を見返しながら時間を計算したのだが、
さすがアメリカ、ちょっと移動しても7時間とかいうことになってしまうw
メンフィスの町に着いてから、なかなか安いモーテルがなかったのでかなり苦しんだ。
何軒か当たったものの、やっぱり値段にこだわってしまう。
それで時間をかなり食ったからだ。
あんまり計画通りに行くことがいかないことが多く、予約はしなかったので、
深夜に納得のいく値段のモーテル探しをしていたのだが、これがなかなか疲れる。
夜の運転を担当することが多かったので、
モーテルを見つけるとテンションがあがるという、奇妙な条件反射が形成された。
この日は汚いが17ドルのモーテルを見つけたのでようやくチェックイン。
チェッカーズというハンバーガー屋で買って食べた。
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見つけたモーテル。
部屋の中にはコンドームが落ちてた。
やめてくれ。 |
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今日は3食ともジャンクだった。 |
今日の苦労話をおつまみに、ビールをたらふく飲むと
すぐに眠ってしまった。