2010年11月25日木曜日

11.21

この日は僕にとって忘れられないビッグデイになった。
災難というべきか、幸運というべきか。

いやはや。


ブエノスアイレスに戻ってきたのが、夜中の0時。

もちろん空港で夜を明かす。。
ロビーの端っこのほうで、銀マットを敷き、横になって寝る。
他にも同じ考えのバックパッカーがいた。
いすに座って寝ないといけないところもあるけど、ここは寝そべっても注意されないのがよかった。


朝になり、騒がしくなる空港の窓から、日が差し込んでいる。
ここに滞在した、一週間前よりも、日差しが強くなっている気がする。
日本が冬を深めていくころ、ブエノスアイレスには、夏が大股で近づいているのだ。


起きて、乗り合いバス、コレクティーポに乗る。
コレクティーポは2ペソ(50円)でブエノスアイレスのセントロまでいってくれるのだが、
寄り道して乗客を集めながら進むので2時間もかかってしまう。


でも直通バスだと40ペソ。
快適で早いが、高い。一泊できる。


すでに一回歩いた街だから、すぐに宿にたどりつく。
ここもやっぱり日本人宿だ。

値段も高くはないし、居心地が良すぎるので、ついついこのこの宿をえらんでしまいます。

僕がこの日にカラファテから戻ったのは、
ブエノスアイレスに本拠を構える、ボカジュニアーズの試合が見たかったからです。

ボカは、アルゼンチンの名門で、
マラドーナやヴェロンやバティがかつて所属し、
現在も、リケルメ、パレルモなど、一流の選手が活躍しています。

サッカー先進国のヨーロッパで機会に恵まれなかったので、
この旅でサッカーを見る最後のチャンスだと思ったわけです。

宿で何人か一緒に行きたいという人がいたので、結局4人で行くことになった。

スラム街が近くにあり、治安が悪いというボカ地区も、4人だったらまあ大丈夫だと思われる。
ボカジュニアーズのボンボネーラスタジアムまでコレクティーポに乗って向かう。

ボカ地区の先を少し行くと、そこはスラムらしい。

ボカのホームゲームは、一般にチケットが出回ることがなく、
流通が特定の人たちに囲い込まれているそうだ。
年間パスを買ってる人以外が観戦したいとすると、なかなか入手が難しい。

なんやねんそれー。


なのでさしあたって唯一の手段であるという、ダフ屋から購入する。
スタジアム周辺にはたくさんダフ屋がいる。

数人に値段を聞いて回りながら値切って130ペソ(3000円ちょい)で一番安い席のチケット購入。
一緒の日本人にスペイン語を話せる人がいたのであっけなく購入。

旅しながら、途中の町で語学学校に通うっていうスタイルをとっている人が、
南米はけっこういるみたいだ。
ベネズエラとかのスペイン語学校は安いんだって。
いいなぁー。


入るのはもちろん、一番やんちゃで、盛り上がるボカのゴール裏、ノルテだ。
まだ始まってもないのに、きっちりそろった応援歌が、スタジアムを震わせている。

すごい迫力。
念に念をおしたセキュリティを受けて、スタジアムに入る。
警官多くて物々しい。
セキュリティ。

スタジアムはボカカラー。
ノルテ入り口。

中は異様な雰囲気。南米のサッカーもサポーターも荒々しい。


もう、太鼓や吹奏楽器をつかって応援歌をかきならし、
裸になってどんちゃん騒ぎ。
一人しかボカのユニフォームを着てなかった4人はかなり場違いな印象を受けてしまう。
試合前。

ピッチはこんな感じ。

祭りだー。


日本の競技場とは少し違って、観客席はベンチというよりは、
階段が下から上まで続いただけの構造になっています。

ここノルテで、階段に座りこむ人はいません。

みんな立ち見。
傾斜がきついのもスタジアムの迫力を増していますね。

最上部から最下部まで、チームカラーである青と黄色の細長い団幕が垂れ下がっています。
熱狂的な人は、その布につかまりながら、柵の上に乗って観戦します。
布の直下は、試合が見にくい為、人があんまりいません。

また対戦相手はアルセナルという人気のなさで一、二を争うチームのため、
肩が触れ合うくらいの距離で込み合っている周辺にも、
けっこう誰もいないスペースがありました。

まねして柵に乗っていたら、
「お前らが乗るな」的な感じのことを言われて下ろされてしまった。

観光客にもアウェー。
コエー。

でも、僕はひさしぶりにサッカーに触れられるのでとても楽しみでうきうきでした。

もしかしたらここでもっと警戒すべきだったかもしれない。

爆発音とともに花火が上がり、ボカの選手たちが入場。

混雑した中でぽっかり空いたスペースに出て、花火をビデオに収めるべく、
愛機、RICOH CX3を右手に構えて空に向けた。

カメラはそれまでにも堂々と撮っていたし、ここはいっぱい人がいるので大丈夫なはずと、思ったわけです。


上に向けたカメラのライブビューを注視していたため、
僕は横に忍び寄る影に気がづかなかった。



なんて甘い。




頭上から降りおろされる太い腕の残像が見えた直後、
手からカメラの重みが消えた。




振り向くと巨漢の男が僕のカメラを右手に握って、
階段をのぼって逃げようと、背を向ける像が見えた。



現役を引退して太ったディエゴ・マラドーナの背を、もっと大きくしたような男。

その巨漢の足音も含め、一切の音は花火にかき消されている。
水中の魚を狙う水鳥のように、むだのないひったくりだった。


「やられた!!」


旅に出て3ヶ月。
トラブルらしいトラブルもなかったことで油断してただろうか。
強盗にあってしまった。


でもここで、話は終わらない。
終わればよかったのだが。



旅人が、強盗にあったとき、「抵抗しない」「やり返さない」が基本中の基本である。

旅人は、現地人の中では圧倒的に立場が弱い。
変に強盗犯をあおると、ナイフやらピストルが出たり、あとで現地人にリンチをくらうこともあるからだ。


ただその教訓は、頭で理解していても、とっさの状況においては何も意味しなかった。
少なくともこのときの僕には。


――おい、返せや!



次の瞬間、僕は丸々と太った男の背中に追いつき、
左手で奴の右肩を、右手で奴の右腕をつかんでいた。

追いつくのは容易だった。俊敏性で日本人に勝てると思うなデブが!!


そのおっさんは僕に引っ張られて、体の向きを反転した。


僕の右手は、強盗の右手に収まっているカメラをつかみ、
それを争って取っ組み合う形勢になった。


カメラに触れているんだし、もうこっちのもんだ。
簡単に取り返せたと思った。


おっさんは僕にカメラを掴まれて焦ったのか、僕を引き離そうと暴れた。
お腹を殴られたが、間合いが近すぎて痛くなかった。


それより、相手が必死すぎて気味が悪かった。
相手からすれば、しがみつく小柄なアジア人が気味悪かっただろう笑


すぐ傍に警官がいるから相手が必死になるのも無理はない。

これだけ暴れれば、この騒音の中でも目立つ。人目につけば僕の勝ちだ。

でも、カメラを奪いきれない。

おっさんは僕に右腕を引っ張られながら、
強引に階段を上がろうとした。

僕は腕をつかみながら同じく階段を、追う。

二、三段上がって強盗と僕が、空いたスペースから群集の中に入っていく。

この人ごみに入ったら、まずはこの狂人を誰かが止めてくれるだろう。

これでカメラは取り返せる。手は放すまい。




そう思った瞬間、予期せぬことが起こった。




僕の視界の外、この急な階段の数段上から、
群集の中の一人が僕の顔、左あごあたりに強烈なトーキックを見舞った。
解剖学的に言うと、下顎角あたり。

ゴン!!



「ちょっ、おまっ、キックオフまだやぞ。」
ってつっこみたくなった。

いうてる場合か。




蹴りの衝撃で脳がゆれたせいか、後頭部を何かで強打するまで、覚えていない。
けど、脳震盪にはいたらないみたいだ。CSFバンザイ!!


この後僕がどうなったか、想像できなさそうだったら、
ためしに急な階段を走って上る人間の顔を、死角の階上から強く蹴ってみるといい。


言うまでもなく効果はバツグンだ。


抵抗もむなしく、僕は後ろざまに倒れて階段を漫画みたいに転げ落ちたようだった。
もちろんカメラは放してしまった。
どんな風に、何段落ちたかは覚えていない。


蹴られた刹那、初めて気づいた。ここで観衆の敵になったらがちで殺される・・・・。


サポーターが立って踊り狂う鉄の柵足で後頭部を強打したところで、僕の転落は終了。
そしてここでホイッスルとともに試合開始。



「がんばれボカジュニアーズー!!」


言うてる場合か。







幸運にも、あれだけ派手に崩れ落ちたのになんとか自分で立って歩けた。
それにカメラのデータも、PCにしっかりバックアップしてある。


しばらくふらふらしていたので、周りがどんな目で見ていたかは観察できなかった。
ただし見ていたアルゼンチン人は一人も助けの手を伸ばしてこなかった。


蹴ったやつも巨漢マラドーナのグルなのかどうかさえわからない。


でも、あんまりショックではなかった。
旅人によく起こることが自分におきて、少し抵抗してしまっただけだ。

日本人3人は僕が倒れるのを呆然と見ていた。
たかしさんが犯人を少し追ってくれたみたいだったが、わからなくなったみたいだった。
むしろそれでよかった。

しょうがないと割り切ってサッカー観戦を楽しむことにした。

のんきなもんだ。


耳の裏(乳様突起あたり)にできた大きなたんこぶに、応援で使用される太鼓の音が響くのが気になるが、
見ているとサッカーのレベルは確かに高い。

玉際がはげしくて、ロングボールは少なくて、きっちりつなぐ。
サポーターの雰囲気は荒々しいが、アルゼンチンでサッカーが愛されてるって感じだ。

結果は2-1でボカの勝ち。
なかなかこのレベルまでJリーグには追いつけないだろうな。見に来たかいはあった。

帰宅は何事もなかったが、なぜか右足の付け根が痛くて足があがらないのと、
右の顎関節が痛くて、ものを噛めなかった。
でもそれも、翌日にはどうってことなくなった。


アルゼンチンは治安が悪くて、良くない国などと思わないでほしい。
今回僕がたまたま運が悪かっただけで、
強盗にあってしまったがアルゼンチン人は基本いい人だ。

それにもし自分がスラムに生まれていたら、
生まれた場所が日本というだけで金を持つ人間があほみたいにカメラを見せていたら襲ってしまうかもしれない。



過ぎたことは気にしない。
これを気にしていたら、怖くて旅は続けられなくなる。



お気に入りのRICOHがなくても、元気ならまだ旅は続けられる。
仲間に酒で励まされ、宿の簡易ベッドの上で長い一日が終わろうとしていた。


腹も立つがひとまずは感謝するとしよう。明日も命あることを。


この晩僕は、嫌な夢を見た。
ブエノスアイレスの大都市のビル群に
なぜか自分の体がからめとられて、抜けられなくなってしまう夢だ。

起きている間、恐怖心はきっちり閉じ込めたつもりだったが、
この夢の後で次の日の朝、少し外に出るのが怖かった。

宿のドアを開けて出るといつもどおり騒がしい車の流れ。
朝ごはんを買いにスーパーへ行く前にお金を下ろしたい。

ATMを見つけたのだが、ドアに鍵がかかっていて開かない。

困っていると通りの向こう側から男の人がスペイン語で何かを言う。
ジェスチャーを交え、「そこのすきまにカードをピッと通したら開くよ」って言ってるみたいだ。

そのとおりにすると、簡単にドアが開いた。
おお、意外とハイテクなわけね。
わざわざ教えてくれたんや。

振り向いてその兄ちゃんに言う。

「グラシアス!!」

彼は満面の笑みで、親指をあげて
多分「どういたしまして」的なことをスペイン語で言った。

おせっかいなほどにやさしい。

思わず肩の力が抜ける。
解剖学的に言えば僧帽筋あたりが。




カメラは別になくてもええ。
旅において、僕が好きなこんな一場面は写真におさめようがないんやから。



まー言うてもカメラはまだ一眼レフがあるので、たまにバックパックから取り出して撮ろうと思います。

小さいデジカメも、そのうち買い足そうかな。
CX3のバッテリースペアが用意してあるので、
同じのがほしいが海外にはRICOH売ってないし、
それ以外の機種も全体的に日本より低スペックかつ高いので、買うかどうか迷っています。

ゆえにこれからブログの写真が少なくなる見込みです。


すみませんが、お付き合いお願いします。

最近アクセスカウンターをつけてみて思ったのですが、
うちわのブログなのに割とアクセスがあるみたいです。

誰が読んでくれてるんかなぁ??
とわくわくしています。

僕はとても元気なので心配御無用です!


次強盗にあったらひざまずいて、所持品献上しますんで。



ではまた次の記事で。


いやはや、いやはや。

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